1954年のアルジェリア独立戦争前夜、フランス植民地時代のアルジェリアを舞台とした人間ドラマ。植民地ではなくアルジェリアは名目上フランス本国の一部とされおり、「コロン」と呼ばれるヨーロッパ系入植者と抑圧されていたベルベル人やアラブ系先住民、先住民親仏派と反仏派、フランス軍部とパリ中央政府との内戦である。入植したヨーロッパ系の住民は2世、3世となり生活の基盤を失うことを恐れ、フランス軍部はアルジェリアの権益を失うことを拒否し独立を主導したド・ゴール大統領に敵対することとなる。同じフランス人とはいえ本国との温度差は避けられず、「フランスのアルジェリア」をスローガンにした100万人のコロンの声は封殺され軍部の極右派と結託してOAS（秘密軍事組織）を結成してテロを主導することとなる。それらはフレデリック・フォーサイスの『ジャッカルの日』に詳しい。これらの背景をある程度知っているとよりこの映画の意味が分かってくると思う。主人公はアルジェリア生まれのスペイン系、コロンからは異質な扱いを受けアラブ系先住民からはフランス人扱いを受ける。そのポジションがこの映画のテーマだ。主演のヴィゴ・モーテンセンが元フランス軍の少佐で世捨て人的なフランス語教師を好演。寂寥感ある映像からは砂漠に生きることの困難さが滲み出ている。『ドゥ・ザ・ライト・シング』でスパイク・リー監督が赤裸々にしたテーマがここではカミュの原作をもとに描き出されている。どっちが悪でどっちが正義という簡単な線引きが出来る話ではないのは当然だが、そこにこのような演出で取り組んだ秀作映画。人間と自然が織りなすドラマを是非堪能して欲しい。

どうも邦題担当さんは原題を「意味ありげ」な邦題にすることが多い。そうしないと日本人が観てくれないのかも知れませんが。それでもやっぱり担当の作品に対するイメージがタイトルに入っている事が多く、それに引っ張られてしまうのが凄く勿体ない。今回も「生きる」という事がメインテーマなのは間違いないのですが、それを心で感じながら観るのがいいわけで、押し付けられるのはちょっと違う。とまぁ愚痴ばっかり言うのもなんなので、作品について。。。ロード・オブ・ザ・リングで名をあげたヴィゴ・モーテンセン。それからの20年は本当に凄い活躍ですね。どの作品でも彼にしか出せない味のある雰囲気がある。ちょっとニヒルで悪い感じが似合う彼が、教師役なんて意外だなぁと思って観始めましたが、やっぱりそこはモーテンセン。ただただ「いい人」では終わらない彼らしい素敵な役でした。他のキャストもハマっていて素敵な作品に出会いました。

紀元前から紛争の歴史を刻むアルジェリア。元軍人の主人公が教師として現地の子供たちを教えていた。或る日、一人の罪人を預かることに。二人で憲兵本部へと向かう途中、様々な出来事が起こる。世界は常に混沌として平穏でいられる日々は長く続かない。それでも生きることの意味を考えさせてくれる。

まず初めに、この作品はとても恐ろしい戦争映画です。ヨーロッパ大陸からの入植者のコロン（両親がスペイン人とのセリフから）として生きるモーテンセンの心の葛藤を上手く描いた作品。そもそもフランス市民とは？フランス革命以降、国家、国民、共和国に対して全員一致の忠誠心を持つものに対してだけ与えられる権利であり、コロンと呼ばれた人たちも市民権を得られると同時に、フランスという国家の一つのアイデンティティしか認めてもらえない（多くの主張を認めると複数の忠誠心が存在してしまうので）状況とアラブ人のアイデンティティを保つモハメドとの行動を共にしていくうちに自らが誓った忠誠心に疑いを持つようになる様を見事に描いていて久しぶりの良作だと思います。と同時にもう少し突っ込んだ話をすれば過去の話ではなく現在のフランスの他者を認めない、自国民至上主義、人種隔離政策容認国家の現在に警鐘を鳴らしている作品だと思いました。蛇足ですがヴィゴモーテンセン、アラビア人役の俳優としてはトップクラスのレダカテブ両者の演技は今更説明することのない名演技。

お勧めします。いい俳優陣を使ってますね。

アルジェリア戦争をフランスは「戦争」と呼ばず近年まで「秩序維持作戦」と呼びました。どこかで聞いたような話ですが、弾圧された現地人や排斥対象となった入植者、あるいはフランス軍に協力したアルジェリア人や反植民地主義に協力的だったヨーロッパ系住民の其々にとって苛酷で遺恨を残した弾圧戦争であり、これが『シェルブールの雨傘』や『ジャッカルの日』に繋がっていきますアルベール・カミュの原作は『L'Hote（The Guest）』で、映画の原題は『Loin des hommes（Far from Men）』。カミュの自伝的作品で映画にもなった『Le Premier Homme』は『最初の人間』ですが、本作の場合は"hommes"は「男」と解釈すべきであろうと思います。自身ピエ・ノワールであるカミュの作品では、嘘を吐かず、卑怯な真似をせず、筋を通して長い物に巻かれずといったアルジェリア男風の行動規範を守る人物を「男」と呼ぶ用法が多く、自らもそれを理想としていた様子が窺えます。映画作者がカミュを読み込んでいればこそのタイトルと思います。映画には「男」には程遠い者や、「男」の流儀を守りつつもその縛りから希望をもって離れる者、このままでは流儀に悖る自分にアルジェリア育ちの「男」としてのけじめを付けようとする者。様々な"Loin des hommes"が描かれます。アルジェリアへの深い敬意と愛が、最後の授業に込められておりました。スマホで観るより大画面での視聴をお薦めします。